由比敬介のブログ
イェヌーファ
イェヌーファ

イェヌーファ

 東京文化会館にヤナーチェックのオペラ「イェヌーファ」を観に行ってきた。余り有名なオペラでもないし、それほど期待しないで見に行った。チケットを購入したのが遅く、インターネットでの購入だったが、余りいい席が取れなかった。しかし、実際は空席が結構あり、S席でも観られたな。
 内容は、イェヌーファという村一番の美人が、遊び人の男と恋仲なのだが、もう一人実直な青年が彼女に恋をしている。恋仲の男とイェヌーファは婚前に致してしまっていて、実はお腹に子供がいる。母親は、そんな男との結婚は認められないと言って男にも怒る。もう一人の男は、あいつはおまえの顔が好きなだけだと言いながら、逆上してイェヌーファの顔に切りつけてしまう。
 母親はイェヌーファがウィーンに行ったと言って部屋に閉じこめ、彼女はそこで子供を産む。子供がいるので仕方なしに、母親は遊び人にイェヌーファと結婚してくれと懇願するが、男は自分がののしられたことを根に持ち、しかも顔に傷ついたイェヌーファには興味が無くなっており、実は既に村長の娘と婚約をしていた。
 実直な男は、自分の行為を詫び、その後もイェヌーファを慕っている。
 母親は、イェヌーファがその実直な男と結婚して幸せになって欲しいと思うが、そのためには子供がきっと邪魔だと、、イェヌーファに薬を飲ませて、眠っている間に、子供を氷の張った川に捨ててしまう。
 母親は自分が犯した罪の重さにさいなまれ続けるが、やがて、イェヌーファはその実直な男と結婚することになり、その婚礼の当日。
 客には村長夫妻と、その娘、そしてフィアンセである遊び人がいる。
 そんな折、外で氷の中から子供の死体が見つかる。イェヌーファは自分の子であることを証言し、群衆が子殺しの母親に石を投げようとした時、母親が自ら名乗って罪を告白する。イェヌーファは、母が自分の将来を思った故の殺人であったことを理解し、母を赦す。そんなことがありながらも、これからも君を守っていくという実直な男の愛を受け入れて物語はハッピーエンドに。
 そういう内容で、まあストーリーにはつっこみどころがいろいろあるが、大抵のオペラはそうなのでここでも些末は気にかけない。
 ヤナーチェックのオペラは「利口な目狐の物語」のCDを持っているが、まともに聴いたことがなかった。ELP(エマーソン・レイク&パーマーだ、もちろん。・・・パウエルじゃない)のナイフエッジという曲でもそのモチーフが使われた、シンフォニエッタと、タラス・ブーリバ、クロイツェルソナタという名の弦楽四重奏曲などが有名だが、印象としては結構粗野な音楽という気がしていた。
 今日聴いたオペラは、所々ドヴォルザーク風のメロディー有り、ワーグナー風ありだが、かなりオリジナリティーに富み、しかもなかなかいい曲だ。管楽器はやはり粗野なイメージを払拭しきれないが、むしろ今日のオペラには合っているような感じだ。
 第1幕はちょっと冗長で、音楽そのものはかなり面白いのだが、場面が退屈だった。
 ところが、2幕からは急に緊張感が増し、4人しか登場しない2幕は、ほとんど母親の独壇場といった感じで、時間を感じさせない素晴らしい物だった。続く3幕も、子供の死体が上がった辺りからは、怒濤のように終幕へ向かい、かなりクオリティーの高い作品であるように思える。
 罪を負った母親が群衆と部屋を出て行き、舞台にイェヌーファとラツァ(実直な男)の二人だけにするシーンでの音楽は、ワーグナーチックだった。しかもそれで終わってしまうくらい盛り上げてくれる。いかにもそれで子殺しにピリオドを打ったような印象があり、死んでしまった子供がいかにも可哀想な扱いだという思いは残るが、その後、二人が愛を確かめる場面の音楽は美しく、しかも前途の多難さを表現の中に残す、終わり方だった。
 演出もなかなかよく、非常に舞台装置を旨くシンボリックに使っていた。
「道化師」や「カヴァレリア」のような、いわばヴェリズモに属するオペラだと思うが、より泥臭く、生々しい。しかし、ヴェリズモをヴェリズモらしく見せるためには人殺しが必要だというのは、どうもミステリーとかぶるところがある。
 悲劇を悲劇らしく、しかも身近なものとして描くのがヴェリズモなのだろうか?単なるリアリズムではなく、悲劇でなければならないような・・・
 今日の演奏では、母親役の渡辺美佐子さんが、鬼気迫る厳格でありながら、誰よりも娘を愛する母親役を最も好演していたように思う。イェヌーファ役の津山さんも良かったが、渡辺さんは圧倒していた。
 指揮は阪哲朗さんだが、若干荒さはあったように思うが、ヤナーチェックにはそれくらいの方がいいのかも知れない。
 カーテンコールで後ろに直立不動で並んでいた二期会の合唱団の面々は、第1幕の若者の羽目を外したハチャメチャシーンでも、素晴らしい動きをして、イェヌーファが遊び人、シュテバとエッチしてしまう部分を非常にシンボリックに表現する演出を成功させていた。舞台狭しとあの大人数か駆け回り、絡み合う姿は圧巻だった。
 人はあまりはいっていなかったし、1幕で帰った人もいたようだが、作品的には1幕と残り2幕のデキに差があり、まとまっていない気もするが、後半だけでも十分に観る価値はあるし、また演奏もそう言って過言ではない。
 見せ場が、イェヌーファと母親に極端に偏っているので、他の配役には気の毒な作品のようにも思える。・・・ラツァはそうでもないかな。
 いずれにしても、思った以上にいい演目、そしていい演奏で満足して帰ってきた。・・・DVDでも買うかな。出てれば。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です