ヴェルディはもちろんオペラ作曲家として最も有名だが、最近はテレビやら映画やらでこの「レクイエム」の「怒りの日」のメロディは相当有名である。個人的にはオルフの「カルミナブラーナ」と同じような形の知名度のような気がしている。
私はこの曲とは20年以上も親しんでいて、好きな曲の一つだが、最初に耳にしたのがムーティーとフィルハーモニア管弦楽団によるレコードだった。ムーティーにはこの後に別の録音があってそちらは名盤とよく言われる。ただ、私にはこの「レクイエム」を耳馴染んだものにしてくれた古いムーティーの録音と、FMで録音したアバドのライブが非常に耳に心地よい。
評論家が言う名盤や名演と、個人のそれは大きく違う。一つには、年がら年中その音楽を聴き、違いに耳をそばだて、勉強もしてたり、まあ「聴くプロ」と、たまにしか聴かなくて、別に勉強もしていないし、どちらかというと聴き流してしまうような聴き方をしているようなリスナー、この両極端のどこに位置しているかという点と、そもそも音楽が個人の感覚に依存して好みを判断されるという2点に依っていると思う。
なぜこんな事を言うかというと、実は久しぶりにCDショップでそのムーティーの旧盤を見つけて購入して聴いたからだ。実はレコードは持っていたのだが、本当に久しく聴いていなかったのだ。懐かしいその音楽は、まさに心地よく私の耳に響いた。
実は私はこの曲の中で最も好きなのが、その「怒りの日」の最後に出てくる「ラクリモーザ(涙の日)」の部分で、この美しさは絶品である。ただ、私もその昔は迫力があり、死人を目覚めさせそうな「怒りの日」がきっかけで好きになったので、そういう意味でこのムーティー盤に関しては、その類い希なユニークさを持つ(と私は思っている)「怒りの日」のスピードだ。「テンポ」という言葉は生ぬるい、弦はほとんどついていくのがやっとというくらいの軽快を通り越したスピードで展開する。たぶん、ちょっと上滑りしているといってもいいかもしれないが、この若々しくて勢いの任せた演奏が私は大好きだ。ほぼ15年の月日を飛び越して、初めて聴いたときの感動が甦ってきた。
こういうときに、音楽はいいなあ、と思う。
カラヤンやシノーポリの盤も持っているが、比較して聴くとやっぱりムーティーのが一番かっこいい。え?レクイエムがかっこよくても仕方ない?