「傷追い人」は小池一夫原作、池上遼一画によるマンガで、ビッグコミックスピリッツだか、スペリオールだか忘れたが、に連載されていた。20年前後前のことではなかったかと思う。
私の好きなマンガのベストファイブに入る。
私はいろいろなところで、ことあるごとに言っているのだが、強い主人公が好きだ。しかも圧倒的に。自分の周りにでもいそうな普通の主人公など読む気がしない。と言うことは、日常を扱ったマンガはほとんど読まないと言うことだ。・・・というより、横山光輝を除けば、非常に限られた読書量だと思う。
「傷追い人」は、G・P・Xという名のポルノ映画組織に復讐を誓う茨木圭介という青年が、莫大な宝を手に入れて、アメリカ社会でのし上がりながら、闘うという物語だ。4人の女性との恋愛と、相克を彩りに、まるで現代版モンテクリスト伯のような展開と思わせて、それと大分違うのは、実際は復讐劇ではなく、復讐すべきG・P・Xの正体を暴いていく物語なのだ。
G・P・Xは、上流階級御用達の、会員制ポルノ配給組織で、出演者は各界の著名人のみで占められている。アメフトのヒーローだった圭介もそのターゲットになるが、恋人との愛を貫いて拒否する。その過程で恋人の夏子は死に、圭介はG・P・Xに復讐を誓う。復讐のための資金を得るために南米に金を求め、その時であったアナウンサーの夕湖と行動を共にしながら、新たな恋をする圭介。そして、ジャングルの奥で莫大な財宝を手にする。しかし、夕湖もまた旅の途中で死に、その折行動を共にしていたペギーという名の女性と共に、圭介はジョー・ツルギと名乗ってニューヨークで華々しくデビューする。ペギーはG・P・Xの一員であるマフィアのボスとの戦いの時に圭介をかばって死ぬ。圭介はマフィアの跡目を継ぐことでその一員となり、G・P・Xに一歩近づく。組織は圭介殺害のためにミスティーという少女の殺し屋を差し向けるが、ミスティは失敗し、逆に圭介を愛するようになる。彼らを襲って次にやってくるのはベトナムを経験した退役軍人の二人で、圭介とミスティは彼らと戦艦を舞台に死闘を繰り広げる。そしてその戦いに勝った圭介に、真実が語られる・・・・
という内容で、まあ、とにかく圧倒的な腕力と、精神力プラス財力というスーパーマンが主人公なので、非常に小気味いい。逃げている時も、逃げているというよりは次の手に向かって進んでいる。これはどちらかというとハリウッド的な作品なのだ。
そう、ハリウッドで映画化したらきっといい作品ができあがるような気がする。
いかにも小池一夫な小理屈(という表現は失礼だが)の積み重ねがリアリティを生んでいるし、圭介の純愛にも何か心打たれるものがある。
とにかく裸とエッチなシーンが多いので、親は子供に読ませたくないかも知れない。
しかし、あれほどの情熱を持って、何かに突き進む事は、人間ほとんど無いと思う。
拷問のような責めと恋人の死で、髪の毛が真っ白になってしまっている圭介は、白髪鬼(ホワイト・ヘアード・デビル)と名乗るのだが、これだけはどうもゴロが悪いような気がする。
それと、やはり最後の落ちが今ひとつだ。ミスティーと結婚し、3人の女性を弔うシーンはとてもいいが、何かが違う。彼が求めていたものの意味を、その前のシーンで説明しようとする意図は分かるのだが、何だろう、よく分からないが・・・
ただそれを押しても、この圧倒的に強靱な男が持つ魅力は、他のマンガではなかなか味わえない。同じコンビの「クライング・フリーマン」にはない世界観なのだ。
言ってみれば、生臭いゴルゴ13みたいなものかな。画はさいとうたかおよりも個人的にはずっと好きだが。池上遼一の画はこのころが一番好きだ。・・・他をよく知っているわけではないが。