由比敬介のブログ
些細な話
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些細な話

 ちょっと前の話だが、自販機で水を買おうとした。150円の500mlの水だ。伊藤園の自販機で、150円ちょうどを入れた。
 水のところを押すが、うんともすんとも言わない。よく見ると、お金を入れた後、そこだけランプが付いていない。と言うより、他に赤いランプが付いた。ないのかなと思って、お~いお茶でいいと思い、そこを押したとたん、お茶は出てこないで、お金を入れてない通常の自販機の状態になった。
 一瞬ぽかんとしてしまったが、お茶は出てこない、お金は吸い込まれる、いったいどういうことかと思ったが、文句を言おうにも、どこに行っていいか解らない。結局向かいの自販機で水を買って帰った。
 その折、伊藤園の電話番号を控えてきた。文句を言ってやろうと思ってだ。
 さて、しかし考えてみると150円だ。「1円を笑う者は1円に泣く」と言うが、決して150円を軽んじているわけではないが、どうも文句を言いづらい。その場で「ちょっとこの自販機おかしいよ」と、店の前とかにあるものならいえないこともない。しかしわざわざ電話をして、しかも家に帰ってから電話をするとなると、「たかが150円」に思えてくる。
 人間は多くの場面で、無駄なお金を使う。パチンコなどギャンブルとは言わないまでも、余計な物を買って、使わなかったり食べなかったり、同じ本やCDを2度買ってしまったり、誰もいない部屋の電気をずっとつけっぱなしにしているのだって、実は十分に無駄なお金だ。
 家では、ステレオの電源は常に入っているし、パソコンも24時間ほぼつけっぱなしだ。十分に無駄だろう。でも150円が気になるわけだ。
 500ml150円のペットボトルのお茶を4本買えば、600円。しかし同じお茶でも2Lのペットを買えば、安いと180円程度で買えたりする。自販機の1回など、たいしたことではないのだ。
 しかし、その時出てこなかったというかすかなストレスが、腹立たしさが、その150円には含まれているので、1.5Lで400円得することで相殺されるわけではない。
 また運が悪いという見方もできる。運の善し悪しというのは、言ってみれば予測のつかない状況で、人がその場で起こったことが、非常によかったと感じるか、非常に悪かったと感じるかを表現する言葉に他ならない。
 だから、場合によっては大学に落ちるのも運が悪いわけで、それが努力の如実な結果であるかどうかは、客観的に証明できるとは限らない。150円入れて商品が出てこないことが、可能性としてあるかないかと言えば、あるに違いない。機械の故障という単純な理由で説明できる。あるいは偶然とか。
 この世には人知の及ばぬことがあるらしいと、多くの人が思っている。幽霊の出現と、偶然商品が出てこないことは、実は同じくらい人知の及ばぬことかもしれない。
 運が悪いと考えることは、実は大きな意味で諦念ともいえるもので、場合によっては人はそれを敗北と考える。あきらめてしまうと言うことだ。もちろん、そこで戦うべき運命とあきらめるべき「たまたま」があるのだろうことは、容易に想像が付く。
 先日、痴漢の冤罪で無罪になったという人の話をテレビで見た。これなど戦わずにはいられない「運命」と呼ぶに相応しい出来事だし、こういった運命を背負う人と、背負わない人がいるこの世の不公平を、やはり感ぜずにはいられない。
 150円はやはり些細なことなのだ。
 だがその150円の積み重ねが億という利益をおそらくは伊藤園にもたらしていると考えれば、決して小さくはない。でもこれからも、お~いお茶は私の定番なので、飲み続けるに違いない。
 あ、そもそもは水を買おうとしたのだった。
 

3件のコメント

  1. mie

    こんにちは、はじめまして。
    本日会社のPCである情報を探していましたところ、こちらのHPに出会いました。
    初めて読んだエッセイは、国歌斉唱についてでした。確かに・・・・と思うところも多々あり、近々のコラムを一気に10日分ほど読みました。
    なんだか、次のエッセイを読むのが楽しみになってしまい、「あっ、いけない!仕事中だ!」という感じです。
    これからも、エッセイを読ませていただきますので、素敵で面白いエッセイ、宜しくお願いします。
    mie

  2. とも

    どうも、ともです。こちらでは初めまして。
    さて、この件、私にも経験があります。
    私はその場で電話しました。事情を話し、住所を
    連絡すると後ほど料金+数十円(多分電話代)分
    の定額小為替が送られてきました。なお自販機の
    番号等も聞かれるのでその場で電話した方がいいと
    思います。それでは。

  3. 由比

    mie様
    最近書くのがおざなりになっていて、我ながらいかんなあ、と思っていたところに力強いコメント、ありがとうございます。
    誤字脱字をよく指摘され、なかなか直せないのですが、こうやって読んでいただける方がいるのだと(友人以外に)いると思うと、襟を正して書かねばという気になります。
    面白く読んでいただけるよう、がんばりますので、時折のぞいてください。
    とも様
    そうなんですねえ。すぐ電話すればいいのです、きっと。・・・そのあたりで気持ちが萎えてしまうのですよ、私っていうやつは。

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