由比敬介のブログ
歌劇「シンデレラ」(マスネ)
歌劇「シンデレラ」(マスネ)

歌劇「シンデレラ」(マスネ)

 マスネという作曲家は、「タイスの瞑想曲」で有名だ。この曲は、いわゆる「癒し」系のクラシックアルバム(NHKの名曲アルバムとかね)によく入っていたりする。
 元々この曲は「タイス」というオペラの間奏曲だが、美しい曲なので、元のオペラなどよりよっぽど有名だ。
 お聴きになりたい人がいればカラヤンとベルリンフィルによる、 序曲・前奏曲・間奏曲集 がオススメ。1枚聴かないうちに確実に寝れる。・・・・いや、いいアルバムですよ、ほんとに。
 さて、そんなマスネであるが、まさにオペラ作曲家で、寡聞ながらオペラ以外で有名な曲を私は知らない(ホントはたくさんあるが思い浮かばない)。そのオペラでは「ウェルテル」「マノン」が特に有名だ。あと「ドン・キホーテ」とか。
 そんなマスネに「シンデレラ(Cendrillon)」という作品がある。もちろんオペラだ。マスネはフランス人だから、「サンドリヨン」が正しいが、いわゆるシンデレラの話だ。私はこの作品に15年ほど前くらいに出会い、当時Sonyから発売されていたLPを購入した。
 フレデリカ・フォン・シュターデがタイトルロール、王子様役がニコライ・ゲッダというのだった。1幕のシンデレラのアリアが好きで、自分で作ったロック、歌謡曲混じりのカセットの中に、マーラーの「大地の歌」の第1楽章とともによく入れていた。儚げなシュターデの歌唱が、サンドリヨンをよく表現していた。・・・実を言うと、通して聴ききったことがない。後半だれるからだ。
 しかし、レコードで出ていたので、どうせCDも出るだろうと高をくくっていたら、一向に発売されない。シュターデの盤じゃなくてもいいからと待ったが、出ない。オペラを紹介した本のマスネのコーナーにも滅多に「シンデレラ」という文字を見ることもない。
 そのときになって初めて、「ああ、この曲は全く無名の曲なんだ」と解った。
 数年前に新宿のTOWERで見つけたので、これならそろそろ国内版が発売されるかなと思ったら、一向に出ない。その次に行った時にはそのCDはなかった。後悔というのはこういう時使う言葉だ。
 それがしばらく前に再び棚にあった。前に、決断力のなさを連れに怒られたので、今度はすぐに買った。輸入盤なので当然日本語訳は付いていないし、その割には高かったが、満足している。対訳も実はLPの時にひょんなことからレコードに付属していたものとは別のものを手に入れていて、それが見つかったので問題ない。
 久々に聴いたシュターデの声は、記憶の通りだったし(これは他のオペラで聴いたりしているからそれほど記憶に遠かったわけではないが)、やはりいい曲だと思うが、ちょっと記憶とはメロディが違っていた部分もあった。
 オペラは、総合芸術とよく言われるが、CDで聴くというのはそのおよそ半分と言ってもいい「劇」の部分を省いて鑑賞するわけだから、その時点で作品全体の真価は聴く側に伝わってこない。また、Je suie Japone しかフランス語の記憶がない私にとっては、歌詞を見ない限り意味も伝わらないので、さらに価値の一部が削がれる。そして、オペラ全体を鑑賞しないのだから、ホントに全体のわずかばかりを抽出して楽しんでいることになる。
 映画や小説などを見ることを考えると、どうも大分違う鑑賞の仕方だ。
 もちろん、それらの芸術や文学だって、一部を繰り返し観たり読んだりということはあるので、同じようなものだと言えば言えるのかも知れないが、実はそうではなくて、オペラという作品は部分部分切り取って、アリアや間奏曲といったところが、単独でも楽しめる芸術なのだ。
 木を見て森を見なくても、十分に木で満足できる場合がある。まあ、そういったところか。
 そんな意味で、私にとっての「シンデレラ」は、これからもあのアリアがその価値のほとんどを占めることになるのかも知れない。

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