由比敬介のブログ
内田康夫
内田康夫

内田康夫

 内田康夫の「秋田殺人事件」を読んだ。初出は2000年で、新書版で出たのが2002年。しばらく本箱の奥で眠っていたものだ。
 内田康夫を読み始めたのは何年くらい前だろう。水谷豊が浅見光彦をやっていたのと、ほぼ同じ頃なので、20年くらいは前だろうと思う。最初に読んだのは「小樽殺人事件」だった気がする。光文社文庫が出たのが1989年になっているので、きっとその頃だろう。職場の店長が読むというので、読んでしまったものを何冊か上げた記憶がある。
「小樽殺人事件」を皮切りに、10年間でたぶん50冊くらいは読んだ。
 最近でも中村俊介や沢村一樹などが浅見光彦をやっているし、それ以外にも、辰巳琢郎や榎木孝明などがやっていた。気になったので調べてみると、最初の浅見は国広富之、次が篠田三郎、三代目が水谷豊らしい。それ以外にも、高嶋政伸もやっているらしい。
 なぜこのドラマについていきなり書くかというと、私にとっては、作品のおもしろさもさることながら、水谷豊主演のシリーズが、内田康夫作品を続けて読むための最初の原動力でもあったからだ。
 内田康夫自身は浅見のイメージをどこかで、森田健作と書いていたが、それはまあ、時代のなせる技で、最近の浅見光彦は、どれもうまくイメージにはまってはいるように思う。実は水谷豊はそのイメージから最も遠い。しかし実は水谷作品は現在DVDになっているものだけでなく、全部で8作品ある。いかにこのシリーズが人気があったかということだ。
 逆に、浅見のイメージが固定化することをおそれ、作者からストップがかかったという話を聞いた。
 それぞれ、作品としてよくできているし、内田康夫がかつての作品に宿していた「古き良き日本」と「戦争の陰」という雰囲気もうまく醸していた。しかし何より、水谷豊の演技力でもあったと思う。現在の「相棒」でもいい味を出しているし、かつての「傷だらけの天使」では、全く今の水谷を予測できない役者だったように思う。
 まあ確かに、10も20もそれで映像化されたら、見る側はともかく、作者は面白くなかろう。まして浅見のイメージとは少々違うので。
 とにかく、久しぶりに読んだ内田康夫だった。どれくらい久しぶりかというと、たぶん、2年以上は読んでいない久しぶりだ。
 内田康夫を読むというのは、ほぼ9割以上の確率で、「浅見光彦シリーズ」を読むと同意語なので、いわば、それを7~80冊くらい読んだということで、岡部とか竹村という、読んではいてもなぜか浅見光彦の方が面白いという不思議な主人公ではある。
 浅見光彦クラブなどという、ファンクラブまであるらしい。まあ、実際は内田康夫ファンクラブだと思うが、力石徹の葬儀だってあるくらいだから、解らない。
 私が浅見シリーズを読む最大の魅力は何か?といわれて最初に答えるのが、「浅見光彦が警察の取り調べで警察庁刑事局長の弟と判って、警察官が、急に態度を急変させるシーン」というのだが、実際そこが楽しみで読んでいるので、そのシーンがないと、非常にがっかりする。印籠のシーンが無くて寂しい思いをするおじいちゃんのばあちゃんの水戸黄門にたいする気持ちがよく分かるのだ。
 どちらかというと、あまりミステリとして読んでいないな、と思う。
「秋田殺人事件」だが、秋田杉の家にまつわる現実の事件をベースに書かれていて、ある時からの内田康夫は、非常に社会派で、もちろんそれは昔から無かったわけではないが、ある意味、現実の事件を非常に上手く扱ってフィクションに仕上げている。
 実際今回もそうで、上記の事件と新任の女性副知事、警察の腐敗みたいなものが内田流の正義感で上手に書かれている。
 しかし、この社会派が前面に出すぎた内田作品というのは、あまりリアリティのない清純派探偵浅見光彦と、これまたリアリティのない、どちらかといえば定型化されたヒロインのからみとともに、限界を感じざるを得ない。
 相変わらず小説はうまいし、読みやすい。だが、必ずしも共通認識のもてないものの考え方を、あまりに強く読者に向けて放射しすぎていて、鼻につく。それは例えば、面白いのだが、作者の訴えかけが鼻につく「鉄腕アトム」よりも、純粋に善悪二元論でエンターテインメントに疾駆した「鉄人28号」の方が、面白いというのと似ている。
 もちろんアトムと鉄人同様、趣味は様々なので、私が「鼻につく」部分に、至極共感を覚える読者はたくさんいるだろうし、浅見ファンの多くはきっとそうなのだろうな、と思う。差別的な意識はさらさら無いが、女性読者にはきっと多そうな気がする。あくまで気がするだが。
 内田康夫さんにはぜひとも、あまり政治家や官僚の登場しない、こてこてのミステリを書いていただくと、より面白い。
 もはや、永遠の33歳、浅見光彦は、セックスもしない清廉潔白な朴念仁として事件解決のためにどこまでもソアラを走らせてくれればいいし、ヒロインとのからみも期待しないので、せめてあまりにきれいな解決(特に政治的なものや、犯人自殺というパターンなど)は、何か残念でならない。
 まあ、昔読んだものも相当記憶の彼方で、忘れているので、上記の指摘は実は当たっていないかも知れない。ただ、そんな印象があるんだよなあ。
 いや「秋田殺人事件」も、面白いには面白かったですが。

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