クーンツの「オッド・トーマスの霊感」というのを読んだ。
ぼくは実は、いわゆる「ホラー」が嫌いなので、スティーヴン・キングも含め、ホラーらしい作品を書いている作家さんの作品はほとんど読まない。読んだら面白いのかも知れないが、どうも肌に合わない。
クーンツも実は最初、そう思っていたので読む気はなかった。だが、「ウォッチャーズ」という作品を読んで、好きになった。もう15年くらい前ではないかと思う。ステープルドンの「シリウス」を思いながら読んだ。これが面白かったので、何冊か読んだ。ただこの人の場合、何冊というのがほとんど上下巻だったりするので、冊数だけは多い。
しばらく読んでいなかったのだが、何となく書店で瀬名秀明の帯に惹かれて買った。
結論から言えば、面白くなくはない。霊が見える平凡な主人公という設定だが、設定上の多少のご都合主義は、どんな場合でも許されるので、彼がヒーローとなる元、つまり、未来予知できるわけではないのに、結果的に予知をし、事件を防ぐという流れは、ある意味とてもハリウッド的で、悪くない。ただ、そこへ行き着くまでが、とにかく長い。この小説を、この長さで書く意味がよく分からない。
もちろん、主人公とその婚約者の関わりは、どんでん返しも含め、とても重要な話だが、ここまで紙を使わなくても、と思ってしまう。
ぼくは元々長い小説が好きだ。ローダンを例に出すまでもなく、先日取り上げた「モンテクリスト伯」「ダルタニャン物語」「レ・ミゼラブル」「三国志」「水滸伝」「ファウンデーションシリーズ」「デューン・シリーズ」などから比べれば、「オッド・トーマス」は短い。「罪と罰」や「氷点」などと比べても短い。たぶん「ウォッチャーズ」よりも短いのではないか。
でも長く感じた。長いというより冗長だ。なんていうとファンから怒られるかも知れない。
微妙に純文学的な、主人公の周りの世界、日常や家族関係など、あるいは続編のために必要な伏線なのかも知れないが、正直もう少しソリッドにしてもらえたら、だいぶ楽しめた。
こういうヒーローは少なからず存在する。ハリウッド映画などでは、否応なしに事件に巻き込まれた、決して強くない主人公が、結果的に事件を解決するパターンはよくある。トーマスはもう少し能動的であるが、ある意味パターンとしては新鮮味があるわけではない。
ただ、小説には必ずしもアイディアの新鮮味など必要なわけではない。同じアイディアで、それ以前のものよりも優れた作品を書くことは十分可能で、「ロミオとジュリエット」なんて、まさにその典型なのではないかと思える。まあ、「オッド・トーマス」の場合は、「ロミジュリ」ほど、アイディアがありふれているとは言わないが。
作品の後半が、よく書けているだけに、そこまでの流れが少々「うざい」。また、自ら「アクロイド殺し」の語り手というような書き方をしているのは、実はちょっと卑怯な感じもするが、でも実は、これを読んだ人の一部は、きっと思い至ったはずの最後の数章の内容に、悔しいけれどぼくは気づかなかった。クーンツの手の上で踊らされていたわけだ。そして、この作品で一番良かったのがそこの件なだけに、やられた感があった。
もう少し真剣に読んでいれば、思いついたかなとは思うのだが、ちょっと悔しい。
続編が出たら読むかどうか迷う作品だ。
「デューン」や「ファウンデーション」の時は、全く迷いもしなかったが・・・
カテゴリSFにも入れてるけど、SFじゃない。