「衣裳を着けろ」は、レオンカヴァルロのオペラ「道化師」の第1幕の最後に歌われる歌だ。カニオという座長で道化師役者が、自分の妻の浮気を知り、舞台で現実と混同しながら、妻と愛人を殺してしまうという、ストーリーだけでもとてもイタリアーんなオペラで、その妻の浮気を知って逆上しているカニオが、舞台が始まるのだから衣装を着けねばと自分に言い聞かせる部分を切々と歌い上げる、著名なアリアだ。
これは、レオンカヴァルロの最も有名なオペラだが、何とか言う1幕物オペラ作品コンクールに応募された作品で、2幕物であったため失格となったらしい。前年の1位作品がマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」だというから、なかなかのコンクールのようだが、他の著名な作品を私は知らない。
この2作は“ヴェリズモ”オペラの代表作とされていて、時間も短いので二つ一緒に上演されることが多いようだが、確かに魅力的なメロディが多く、冗長にならずに楽しめる。ヴェリズモとは、現実主義的とかそんな意味らしいが、どちらかというとメロドラマ、「牡丹と薔薇」とかに近いんじゃないかと思える。確かに、神話や大時代の歴史物とは違って、日常的な風景ではあるが、それでもかなり、ドラマティコだ。
さて、その中でカニオが歌う「衣裳を着けろ」(カニオとトニオという名を同じオペラに出演させる気が知れない。もう少し違う名前を思いつかなかったのか)だが、これはまさに、重く沈むような部分から、高音へ一気に伸びていく哀愁を帯びた、しかし力強いフレーズがとてもかっこいい。
私はパヴァロッティのものと、デル・モナコのものを持っているが、さすがに当たり役だけあって、モナコのは素晴らしい。パヴァロッティだって十分うまいと思うが、霞んで見える。パヴァロッティのは朗々と歌い上げすぎていながら、なぜか高音が伸びきっていないのに、モナコのは、切々とした情感を漂わせながら、非常にストレートに高音が伸びている。気持ちいいし、それがカニオの狂気にも似た感情をうまく表現できているように、私には思える。「衣裳を着けろ」のサビ部分は、最後の幕前の音楽でもあり、実は1幕の終わりから2幕の終わりまでをうまく繋ぐ音楽でもあるのだ。
アリアのあとは、単独でも素晴らしく美しい間奏曲へと移行する。この作品が、失格とされながら、今でもイタリアオペラの代表的な1曲として命脈を保ち続けているのが納得できる名曲である。
最初に聴くオペラとしても、十分に楽しめる作品であると思う。